講演者:石島秋彦先生
東北大学 多元物質科学研究所 教授
タイトル:
光学顕微鏡を基礎とした生体分子の動作原理の解明-分子モーターの動作機構,細胞内情報伝達,新しい計測手法の開発-
日時:2014年7月1日(火) 16:00-17:00
場所:大阪大学 吹田キャンパス ナノバイオロジー棟 3階セミナー室
要旨:
90年代からの生体分子の1分子計測,イメージング技術の発展によって,生体分子の挙動を1分子レベルで観察・計測できるようになった.この結果,我々は生命現象をより定量的に理解できるようになってきた.しかしながら,生体分子の個々の運動をきちんと計測できるようになってきたからと言って,生命現象そのものを理解できるわけではなく,システムとしての生命現象を理解することも重要である.また,一つの現象のみを計測して,その奥に潜む原理を推論することはなかなか困難な作業であり,時として主観,希望が混入していく恐れがある.自分の研究を振り返ってみると,生体分子の挙動を1分子レベルで計測していくことを主として研究を行ってきたが,自然と二つ以上のパラメータを同時に計測するという方針をとってきたことがわかる.その主たるもので初期のものは,98年に発表したアクトミオシン相互作用の力学・化学反応の同時計測である.さらに,近年力を入れている細胞内情報伝達機構の解明においては,同一細胞上の二つのモーターの回転の相関,回転と回転基部体への標識タンパクの結合,セリン刺激とモーター回転変化との相関など,二つ以上のパラメータを同時に計測する手法が多い.
また,生体分子の挙動を1分子レベルで計測するためには,新しい計測手法の開発が必須となる.これは,現状の製品が1分子レベルで観察・計測するために作られていない,ということもあるが,一連の実験の中でできるだけブラックボックス(サンプルをセットしてスイッチをぽんと押すと結果が出てくる...)の要素を残さないと言う意味でも重要である.遡って91年のガラスニードルを用いたアクトミオシン相互作用の計測では,既存の倒立顕微鏡の上部に正立型の顕微鏡をくっつけた形に改造したように、高度な光学知識がなくても新しい計測手法の開発は可能である.新しい計測手法の開発には新しい素材の活用が必要となる.我々はカーボンナノチューブ(CNT)に着目し,その生命科学研究への応用を模索した.その高いアスペクト比から期待される新しいプローブなども検討したが,その成果の一つは,CNTの高い熱伝導性を利用した新しい運動再構成系への応用である.CNTをプラットフォームとして,その上の生体分子を熱的に制御できることを示した.さらにその運動の様子から,CNT自体の熱伝導性を見積もることにも成功した.このことは私が知る限り世界で初めての計測である.
今回のセミナーでは,今までに私が研究してきたいくつかの結果をご報告したい.
東北大学 多元物質科学研究所 教授
タイトル:
光学顕微鏡を基礎とした生体分子の動作原理の解明-分子モーターの動作機構,細胞内情報伝達,新しい計測手法の開発-
日時:2014年7月1日(火) 16:00-17:00
場所:大阪大学 吹田キャンパス ナノバイオロジー棟 3階セミナー室
要旨:
90年代からの生体分子の1分子計測,イメージング技術の発展によって,生体分子の挙動を1分子レベルで観察・計測できるようになった.この結果,我々は生命現象をより定量的に理解できるようになってきた.しかしながら,生体分子の個々の運動をきちんと計測できるようになってきたからと言って,生命現象そのものを理解できるわけではなく,システムとしての生命現象を理解することも重要である.また,一つの現象のみを計測して,その奥に潜む原理を推論することはなかなか困難な作業であり,時として主観,希望が混入していく恐れがある.自分の研究を振り返ってみると,生体分子の挙動を1分子レベルで計測していくことを主として研究を行ってきたが,自然と二つ以上のパラメータを同時に計測するという方針をとってきたことがわかる.その主たるもので初期のものは,98年に発表したアクトミオシン相互作用の力学・化学反応の同時計測である.さらに,近年力を入れている細胞内情報伝達機構の解明においては,同一細胞上の二つのモーターの回転の相関,回転と回転基部体への標識タンパクの結合,セリン刺激とモーター回転変化との相関など,二つ以上のパラメータを同時に計測する手法が多い.
また,生体分子の挙動を1分子レベルで計測するためには,新しい計測手法の開発が必須となる.これは,現状の製品が1分子レベルで観察・計測するために作られていない,ということもあるが,一連の実験の中でできるだけブラックボックス(サンプルをセットしてスイッチをぽんと押すと結果が出てくる...)の要素を残さないと言う意味でも重要である.遡って91年のガラスニードルを用いたアクトミオシン相互作用の計測では,既存の倒立顕微鏡の上部に正立型の顕微鏡をくっつけた形に改造したように、高度な光学知識がなくても新しい計測手法の開発は可能である.新しい計測手法の開発には新しい素材の活用が必要となる.我々はカーボンナノチューブ(CNT)に着目し,その生命科学研究への応用を模索した.その高いアスペクト比から期待される新しいプローブなども検討したが,その成果の一つは,CNTの高い熱伝導性を利用した新しい運動再構成系への応用である.CNTをプラットフォームとして,その上の生体分子を熱的に制御できることを示した.さらにその運動の様子から,CNT自体の熱伝導性を見積もることにも成功した.このことは私が知る限り世界で初めての計測である.
今回のセミナーでは,今までに私が研究してきたいくつかの結果をご報告したい.