日時
2017年7月28日(金)17:00〜
場所
吹田キャンパス 生命機能研究科 生命システム棟2階 セミナー室
演者
和氣弘明(神戸大学 大学院医学研究科 システム生理学分野)
演題
髄鞘制御不全による情報処理異常の可視化
要旨
情動・認知といった高次脳機能に障害を呈する精神・神経疾患の病態解明・治療法の開発が現代社会で早急に求められている。近年イメージング技術の革新からグリア細胞がその生理機能で神経回路活動の恒常性を維持し、グリア細胞の生理機能の破綻によって精神・神経疾患を引き起こす可能性のあることが報告されてきている。そのグリア細胞の中でもオリゴデンドロサイトは髄鞘を形成し神経伝導速度を制御し、約50倍程度まで速めることができる。この機能によって活動電位の到達時間を制御し、シナプスの発火タイミングを調節することが可能になり、情報伝達を効率化する役割を持っていると考えられる。髄鞘化された軸索は中枢神経系で白質を形成し、異なる脳領域を繋ぐケーブルのような役割を果たしている。この白質はヒトのfMRIを用いた研究によって発達期および学習時に信号が変化することが知られている(Scholz et al., Nat Neurosci, 2009)。また近年、統合失調症の患者のスクリーニングの結果、髄鞘タンパク質の発現に差を認めることがわかり、髄鞘の制御不全と情報処理異常の関わりが着目されてきた。そこで今回はこの髄鞘の恒常性が損なわれているモデルマウス(PLP-tg)を用いて髄鞘化の学習時における神経回路活動への寄与を検証した。PLP-tgはこれまで2ヶ月齢においてわずかな神経伝導速度の低下を認めることが知られており、さらに行動実験によって統合失調様の表現系を持つことが知られている。私たちはPLP-tgマウスの運動学習が損なわれていることを明らかにし、その原因となるような神経回路基盤を示すために、このマウスの神経細胞の発火パターンをウィルスによるカルシウム感受性蛍光タンパク質の発現と2光子顕微鏡を組み合わせることによって可視化した。2光子顕微鏡下で学習行動を行わせることで学習時の神経細胞の発火パターンを正常群と比較した結果、正常に比してPLP-tgは自発活動の増加を認めた。この自発活動の増加は活動電位の伝搬の時間的分散によって生じることを示し、光遺伝学によるオプトジェネティックス法を用いて、この時間的分散を補正すると損なわれた運動学習効率が回復することを明らかにした。本研究により髄鞘の恒常性が損なわれた際におきる運動学習がどのような神経回路の異常によって起きるのかを明らかにし、オリゴデンドロサイトによる髄鞘の恒常性維持機構の破綻による学習障害、情報処理異常の可能性を提案したい。また最新の神経細胞操作法についてもお話ししたい
世話人
八木健
Tel: 06-6879-7991
E-mail: yagi@fbs.osaka-u.ac.jp
http://www.fbs.osaka-u.ac.jp/jpn/seminar/seminar/docs/fbs-seminar-yagi-20170728-b.pdf