日時
2017年7月28日(金)16:00〜
場所
吹田キャンパス 生命機能研究科 生命システム棟2階 セミナー室
演者
石川理子(生理学研究所 視覚情報処理部門)
演題
視覚野における構造的および機能的サブネットワークの生後発達
要旨
生後発達期の脳は周囲の環境に応じて大きく神経ネットワークを変化させることが知られている。私たちは、生後発達期の視覚経験に依存して、一次視覚野(V1)2-4層(浅層)神経回路内の構造的なサブネットワークが形成されることを報告した(Ishikawa et al., 2014)。脳内における情報処理を理解するためには、このようなネットワークの構造的な側面に加え、機能的な側面を明らかにすることが重要である。大脳皮質では、複数の神経細胞が同期的に発火する機能的サブネットワークにより情報が処理されると考えられている。そこで、私たちは、V1内の機能的な神経ネットワークの発達に着目し、神経細胞間の同期発火特性の生後発達とその視覚経験依存性を調べた。正常な視覚環境で飼育した開眼直後のラット(13-15日齢)および生後24-28日齢のコントロールラット、生後直後から暗室飼育し全視覚入力を遮断したラット、両眼瞼縫合により形態視を遮蔽したラットを用い、麻酔下のラットV1から多チャンネル電極により複数細胞の神経活動を記録した。相互相関法を適用し、V1神経細胞のスパイク活動の同期発火性を定量的に解析した結果、浅層では、類似した刺激特徴選択性をもつ神経細胞間で同期的な神経活動が生じ、この同期発火は視覚入力遮断下において形成が阻害されることが示された。一方、深層(5-6層)では、異なる刺激特徴選択性をもつ細胞間でも同期発火が生じ、この同期発火の形成は視覚入力遮断下においても促進された。V1の2/3層は高次視覚野に、5/6層は皮質下領域に投射することが知られており、層依存的な同期発火の特徴選択性の違いは、V1が高次視覚野には刺激の特徴を選択的に伝え、皮質下には統合的に伝えることを示唆する。また、同期発火形成過程の違いは、皮質領野間の神経ネットワークは視覚入力パタンの変化に応じて柔軟に発達し、皮質‐皮質下領域の経路は、入力パタン依らず自律的に形成されることを示唆する。本セミナーでは、視覚野内の構造的ネットワークと機能的ネットワークの発達を比較することにより、構造的サブネットワーク上でどのような機能が実現されているかについて提案したい。さらに、視覚情報処理における層ごとの機能的役割の違いについて議論したい。
世話人
八木健
Tel: 06-6879-7991
E-mail: yagi@fbs.osaka-u.ac.jp
http://www.fbs.osaka-u.ac.jp/jpn/seminar/seminar/docs/fbs-seminar-yagi-20170728-a.pdf