講演者:齊藤実先生
東京都医学総合研究所・運動感覚システム研究分野・分野長・参事研究員
タイトル:ショウジョウバエ単離培養脳イメージング解析から見出された新規ドーパミン放出機構
日時:2014年6月30日(月) 16:00-17:00
場所:大阪大学 吹田キャンパス ナノバイオロジー棟 3階セミナー室
要旨:
記銘‐保持‐想起といった一連の学習記憶過程を、脳全体を同時対象としてリアルタイムに可視化して調べることが可能となれば記憶機構の解明は飛躍的に進むであろう。我々はこの目的のため、単離したショウジョウバエの脳に仮想の匂い記憶を作る、所謂ハエのBrain in a Vat の開発を進めている。今回は開発中のこの解析系と、そこから見出されたドーパミンの連合学習過程での新たな放出機構について紹介したい。 ドーパミンは哺乳類同様、ショウジョウバエにおいても連合学習に必須であり、ドーパミン神経は極めて広範にその終末を投射している。しかし連合学習過程でドーパミン神経はその全ての標的細胞にドーパミンを放出しているのか?それとも特定の標的細胞にドーパミンを放出し得るのか?ドーパミンの細胞生理学的役割と同様に放出機構にも不明な点が多い。ショウジョウバエでドーパミン神経は、情報連合の場となっている記憶中枢キノコ体にも広くその終末を投射している。我々は単離培養脳で疑似的な匂い条件付けを行うと、キノコ体で記憶痕跡に相同するシナプス可塑性が発現することを見出し(Ueno K. et al, J Physiol 2013)、この系を利用してドーパミンの役割と放出機序を調べた。その結果ドーパミンは従来考えられていた、無条件刺激のキノコ体への情報伝達には関与せず、標的キノコ体神経細胞がシナプス可塑性を発現するための決定因子(十分条件)として働くことを見出した。さらに記憶痕跡の形成過程でドーパミンは、恐らく上流神経系からの単なる入力に応じて放出されないこと、寧ろ条件刺激と無条件刺激の連合入力を受けた後シナプスの標的キノコ体神経細胞が、逆行性にドーパミン放出を誘導していることが分かった。この連合入力に応じた標的細胞からの逆行性放出誘導機構により、ドーパミン神経はその終末を広範に投射する一方で、連合学習過程では特定の標的細胞にのみドーパミンを放出し、選択的にシナプス可塑性を誘導することが可能になると思われる。
東京都医学総合研究所・運動感覚システム研究分野・分野長・参事研究員
タイトル:ショウジョウバエ単離培養脳イメージング解析から見出された新規ドーパミン放出機構
日時:2014年6月30日(月) 16:00-17:00
場所:大阪大学 吹田キャンパス ナノバイオロジー棟 3階セミナー室
要旨:
記銘‐保持‐想起といった一連の学習記憶過程を、脳全体を同時対象としてリアルタイムに可視化して調べることが可能となれば記憶機構の解明は飛躍的に進むであろう。我々はこの目的のため、単離したショウジョウバエの脳に仮想の匂い記憶を作る、所謂ハエのBrain in a Vat の開発を進めている。今回は開発中のこの解析系と、そこから見出されたドーパミンの連合学習過程での新たな放出機構について紹介したい。 ドーパミンは哺乳類同様、ショウジョウバエにおいても連合学習に必須であり、ドーパミン神経は極めて広範にその終末を投射している。しかし連合学習過程でドーパミン神経はその全ての標的細胞にドーパミンを放出しているのか?それとも特定の標的細胞にドーパミンを放出し得るのか?ドーパミンの細胞生理学的役割と同様に放出機構にも不明な点が多い。ショウジョウバエでドーパミン神経は、情報連合の場となっている記憶中枢キノコ体にも広くその終末を投射している。我々は単離培養脳で疑似的な匂い条件付けを行うと、キノコ体で記憶痕跡に相同するシナプス可塑性が発現することを見出し(Ueno K. et al, J Physiol 2013)、この系を利用してドーパミンの役割と放出機序を調べた。その結果ドーパミンは従来考えられていた、無条件刺激のキノコ体への情報伝達には関与せず、標的キノコ体神経細胞がシナプス可塑性を発現するための決定因子(十分条件)として働くことを見出した。さらに記憶痕跡の形成過程でドーパミンは、恐らく上流神経系からの単なる入力に応じて放出されないこと、寧ろ条件刺激と無条件刺激の連合入力を受けた後シナプスの標的キノコ体神経細胞が、逆行性にドーパミン放出を誘導していることが分かった。この連合入力に応じた標的細胞からの逆行性放出誘導機構により、ドーパミン神経はその終末を広範に投射する一方で、連合学習過程では特定の標的細胞にのみドーパミンを放出し、選択的にシナプス可塑性を誘導することが可能になると思われる。