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Channel: 大阪大学大学院生命機能研究科
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第167回生命機能研究科研究交流会2017年7月12日(水)12時15分~13時講演:杉山立樹(大学院医学系研究科/大学院生命機能研究科・准教授(長澤研)・准教授)

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【講演案内】

演者:杉山 立樹(大学院医学系研究科/大学院生命機能研究科・准教授)


所属:大学院医学系研究科 幹細胞生物学大学院生命機能研究科 幹細胞・免疫発生研究室(長澤研)     

演題:「骨髄には多くの占有されていない造血幹細胞ニッシが存在する」  

要旨:
 

全ての血液細胞を生涯にわたり産生する造血幹細胞は、ニッシと呼ばれる骨髄内の特別な微小環境に局在し、維持される。従来、骨髄内の造血幹細胞ニッシは造血幹細胞に占拠され飽和しており、造血幹細胞移植で高い生着効率を得るためには放射線や化学療法薬を用いた前処置でホストの造血幹細胞を減少させドナーの造血幹細胞が生着するためのニッシを確保する必要があると考えられてきた。一方で我々を含めた近年の研究により、骨髄に特異的な間葉系の細胞であるCXCL12-abundant reticular cell (CAR細胞)や洞様毛細血管の血管内皮細胞が造血幹細胞ニッシを構成することが明らかとなったが、CAR細胞や洞様毛細血管の血管内皮細胞の数は造血幹細胞数より著しく多いことから、造血幹細胞ニッシは造血幹細胞より多く飽和していない可能性が考えられた。そこで造血幹細胞ニッシに空きがあるか検討するため、従来の報告と比べ多数の純化した造血幹細胞を正常マウスに前処置を行わずに移植したところ、ドナーの造血幹細胞の多くが長期に生着し、一方でホストの造血幹細胞数は低下せず、造血幹細胞の総数は移植していない正常マウスと比較し著しく高い値となった。生着したドナーの造血幹細胞は、ホストの造血幹細胞と同様に、血液細胞を産生し加齢とともに増加した。またドナーの造血幹細胞の長期の生着にはCAR細胞が産生するサイトカインstem cell factorが必須であった。一方で骨髄球系前駆細胞は、造血幹細胞と同様のキメリズムを示したが総細胞数は増加しなかった。これらの結果から、古典的な考え方と異なり骨髄には内在する造血幹細胞が占めるニッシより遥かに多くの占有されていないニッシがあり、前処置を行わずに移植された造血幹細胞は、ホストの造血幹細胞と入れ替わることなく生着し、血液細胞を産生することが明らかとなった。内在する造血幹細胞の数が如何に規定されるかは、ニッシの細胞数や飽和では説明できず、今後の重要な課題である。本研究は造血幹細胞のニッシや生着、維持について新たな概念を提供するものであり、造血幹細胞を用いた移植医療にも重要な示唆を与えるものと考えられる。

 

参考文献)

1. Shimoto, M. et al., Blood 129, 2124 (2017).

2. Omatsu, Y. et al., Nature 508, 536 (2014).

3. Omatsu, Y. et al., Immunity 33, 387 (2010).

4. Sugiyama, T. et al., Immunity 25, 977 (2006).


世話人:杉山立樹(生命機能研究科 幹細胞・免疫発生研究室(長澤研)・准教授)
Tel:06-6879-7968(ex.7968)
E-mail:sugiyama@fbs.osaka-u.ac.jp

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